私がめざすのは、
  日本を元気と生きがいのある社会にすること。
  そのためには、あらゆる世代の人々が自分に合った医療や治療法を
  気軽に安心して利用できることが必要です。 
  自立的な健康を手に入れ、生きがいのある仕事と充実した生活を共存させ、
  生き生きと人生を楽しんでいること。
  私はそんなネットワークを創りたい。

  それを実現するためには、『がんばらない、でも、あきらめない』ことが肝心。

  『がんばらない』とは、一生懸命にならないことではなく、
  自分の気持ちや身体からのメッセージを無視してまで
  「仕事」や「他人」を優先しすぎないこと。

  それさえ気をつけて夢をあきらめなければ、
  『本当にどんなにつらいことでも、
  それが正しい道を進む中での出来事なら、
  峠の上りも下りもみんな、
  本当の幸いに近づく一足ずつなのだ』

2008年07月22日

少年カフカの求める強さ



 「あなたはきっと強くなりたいのね。」

 「強くならないと生き残っていけないんです。」

 「あなたはひとりぼっちだから。
  でもそういう生き方にもやはり限界があるんじゃないかしら。
  強さを壁に自分を囲い込むこともできないし、
  強さとは原理的に、より強いものに破られる。」

 「強さそのものがモラルになってしまうから。
  僕が求めているのは、勝ったり負けたりする強さじゃないんです。
  外からの力をはねつける壁がほしいわけでもない。
  欲しいのは、外からやってくる力を受けて、
  それに耐えるための強さです。
  不公平さや不運や悲しみや誤解や無理解
  −そういうものごとに静かに耐えていくための強さです。」

 「それはたぶん、手に入れるのが
  いちばんむずかしい種類の強さでしょうね。」

           村上春樹『海辺のカフカ(下)』より抜粋 




最近、村上春樹の『海辺のカフカ』を読み返しました。
偶然、携帯で連絡を取った友人も同時期に読んでいて驚きました。

僕がこの小説の主人公カフカ少年と同じ15歳だったとき、
自分にはなにもなく、また何者でもないという感覚だった気がします。
だから、「負けたくない、勝ちたいんだ」という気持ちもありました。

でも、何に負けたくないのか、なんに勝ちたいのか、
というとこれは漠然としていて訳が分からないのですが…

そのとき、求めていた強さとは、勝ち負けの強さ、
それに、外からの力をはねつける壁だった気がします。
今でもそれは変わらないのかもしれません。


けれど、カフカ少年の求める『強さ』はそれとは違います。

かつて村上春樹は、『アンダーグラウンド』という
地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめた著作の中で、
阪神大震災と地下鉄サリン事件という二つの出来事に共通する要素として、
「圧倒的な暴力」ということをあげています。

たぶん、個々の人生においても犯罪や事故のように
世界は崩れ落ちてしまうような可能性を持ちます。

誰の上にも起こりうることとして世界は崩壊します。

広島に落ちた原爆のように、
チェルノブイリの原発事故のように、
阪神淡路大震災のように、
テロや通り魔の襲撃を受けたように、
世界は崩壊します。

規模も次元も方法も違っても崩壊は誰の人生にも起こりえます。

圧倒的な暴力でなくても、
信頼していた身近な人に裏切られたり、
なんだか毎日が上手くいかなくなったり、
当たり前だと思っていた日常が一変し、
そんな見知らぬ明日がやってくるとき、
不公平さや不運や悲しみや誤解や無理解に襲われます。

そんなとき、勝ち負けの強さや心の壁の力だけでは、
人は正気を保てないかもしれません。


僕たちは「これまでこうであったし、これからはこうでありうる」
という一貫した物語の中で生きています。

村上春樹は『アンダーグラウンド』の中で、
物語についてこんなことを述べています。

物語とは所詮「お話」であり、論理でも倫理でも哲学でもありません。
それは、あなたが見続ける夢です。
その「お話」の中では、あなたは主体であり、客体である。
総合であり、部分である。
実体であり、影である。
物語を作る「メーカー」であり、
その物語を体験する「プレーヤー」でもある。

私たちはそんな重層的な物語性を持つことで
この世界で個である孤独を癒している。

あなたが今持っている物語は、
本当にあなたの物語なんだろうか?

あなたの見ている夢は本当にあなたの夢なのだろうか?

それはいつかとんでもない悪夢に転換していくかもしれない
別の人間の夢ではないのか?


僕らは外からの圧倒的な暴力や別の人間の悪夢に巻き込まれたとき、
それでもなお、自分という物語を保てるのでしょうか。

僕自身、いまだ自分の物語を描けているとは、正直とても言えません。
もしかしたら、すでに別の人間の夢に取り込まれているかもしれません。

それでも、カフカ少年が求めた外からやってくる力を受けて、
それに耐えるための強さが僕も欲しい。

そのうえで、他者の物語を優しく受けとめ、
自分という物語を紡いでいく力を手に入れていきたい。

なぜならそれが、
『がんばらない、でも、あきらめない』
ということの真の意味につながっていると感じるからです。
posted by どぅー at 22:29| Comment(8) | TrackBack(0) | 心に響く言の葉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「圧倒的な暴力」が自分の物語に介入してくることは、とてもおそろしいことですね……。

ただ、日常的な些細なできごとが積み重なって徐々に自分の物語を侵食していくことも、同じくらいおそろしいことだと思います。


守っていたはずの物語が、知らぬ間に改変されていないか、時どき点検する必要があるなと感じる今日この頃です……。
Posted by si at 2008年07月23日 04:10
siさんへ

たしかに昨日の夜の地震や通り魔といった「圧倒的な暴力」は目に見える恐怖だけど、
自分の怠惰や政治、環境変化で日常が自分でも知らないうちに浸食されたら、
なかなかそれと対するのは困難だな。

自らのストーリーの点検、すっごい大事だよね。
作者は自分なんだから、再編集や再構築はいつだってどんな風にもできる(*^_^*)
Posted by どぅー at 2008年07月24日 07:40
お久しぶりですー。
伊坂幸太郎の「アヒルと鴨のコインロッカー」を
ぜひ読んで頂いて、感想を伺いたいです。
今回のエントリにも関わると思います。
Posted by nagi at 2008年07月24日 12:13
受け止めて、耐える。
人生永遠のテーマです。

最近、一定の限度を超えると、人の心って壊れるんじゃないかと思うときがある。
圧倒的な暴力に晒されて、激しい怒りと恐怖を感じることで、ややもすれば自己完結した「世界の終わり」に身を投げ込みたくなることもあるだろうね。

自分の物語って何だろう。
自分の心の声には、いつも耳を傾けていたいし、自分の感受性は自分で守らなければいけないな。
Posted by かわしー at 2008年07月25日 00:39
「強くなれ」
最近先生に言われた言葉です。どう強くなればいいのか分かりませんでした。
どぅー兄のこの日記を読んで自分も、押し寄せるいくつもの事柄を受け止めて耐えることができるようになりたいと思いました。

今思ってる未来の自分が本物になればいいなと思ってます。自分の夢を本物にしたいと。

外から受ける圧倒的暴力や別の人間の悪夢に巻き込まれても、なお、自分の物語を保っていたいです。自分の力で。
Posted by リナ at 2008年07月29日 01:48
nagiへ

お久しぶり〜。
伊坂幸太郎の単行本はすべて読んだことあるよ。

「アヒルと鴨のコインロッカー」はもう一度読んでみるね(*^_^*)
Posted by どぅー at 2008年07月29日 07:50
かわしーへ

いったい何を受け止めて、耐えるかという、その対象をしっかり見極められるかが、
ほんと永遠のテーマだよね。

かわしーがハンドで経験してきたように自分の限界ギリギリまで耐え、
努力することで閾値を越え、自分を新たなステージに登らせることができるのも厳然たる事実。

一方で、心を壊してしまい自己完結した世界にその人を追いやってしまうような限界もある。

それらがどう違うかっていうメルクマールを自分なりに感じとり、判断していけるのが
かわしーの言う感受性や心の声に耳を傾ける繊細な感覚であるような気がする。

そればっかりは自分なりに守っていくしかないよね。
でも、そういう感覚をなんとなく話せる相手がいるというのは、
個人的にすごく嬉しいし、勇気づけられるよ(*^_^*)
Posted by どぅー at 2008年07月30日 23:51
リナさんへ

日々、押し寄せるさまざまなことに、極端にネガティブやポジティブになるのではなく、
リアルに、でも、やわらかに受け止められたらいいなとほんとに思う。

実際は、なかなかそんな風にいかないから、すぐ浮わつくし、
イライラするし、落ち込むし、しょげる(;_;)

でも、自分の物語や夢を本物に、現実にしたいという想いがあれば、
そうしたことを受け止め、耐えられるよう少しずつでも自分や周りを変えて行ける。

それが、『強さ』へとつながっていけばいいなと心から思うし、
そうした気持ちを『向上心』と自分でも呼んであげたいo(^-^)o

Posted by どぅー at 2008年07月31日 00:13
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